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東京地方裁判所 平成5年(ワ)13050号 判決 1994年8月29日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金三〇七〇万二七五〇円及びうち金二八〇六万二九三六円に対する昭和五二年一二月三〇日から支払済みまで年二五パーセントの割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告は、原告に対し、昭和五一年六月一九日、原告が訴外興林社大東印刷株式会社(以下「興林社」という。)に対して有する左記債権(以下「本件債務」という。)について、連帯保証をした。

(一)  債権の表示

(1) 元本 金七二〇七万四九〇〇円

(2) 未払利息 金二六三万九八一四円

(二)  利息を年一二パーセントとし、遅延損害金は年二五パーセントとする。

(三)  支払方法

(1) 元本について

昭和五一年六月から同年一二月まで毎月末日限り金二〇万円宛

昭和五二年一月から昭和五三年一二月まで毎月末日限り金五〇万円宛

昭和五四年一月から同年四月まで毎月末日限り金九〇万円宛

昭和五四年五月末日限り金二五〇〇万円

昭和五四年六月から昭和六一年五月まで残元本三〇〇七万四九〇〇円とこれに対する利息をともに毎月末日限り元利均等分割宛

(2) 利息について

昭和五四年六月から昭和六一年五月まで毎月末日限り均等額

(四)  期限の利益喪失の約定

右分割金または利息を期限に支払わないときは、当然に期限の利益を失い、直ちに残債務を弁済する。

2. ところが、興林社は、昭和五一年六月三〇日の経過をもって期限の利益を失った。

3. よって、原告は、被告に対し、本件債務のうち、残元本二八〇六万二九三六円と未払い利息二六三万九八一四円の合計三〇七〇万二七五〇円及び残元本に対する期限の利益を失った日の翌日以降の昭和五二年一二月三〇日から支払済みまで約定の年二五パーセントの損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因はすべて否認する。

三、抗弁

仮に、本件債務及び被告の連帯保証が認められるとしても、興林社は、昭和五六年五月二八日に破産宣告を受け、翌年五月二四日には破産廃止が確定し、同年七月五日に任務終了の計算報告集会が行われて破産手続が終了したから、本件債務の時効はその翌日から進行し昭和六二年七月五日の経過によって時効が完成し、商事債務である本件債務は消滅した。

四、抗弁に対する認否

興林社が原告主張の日に破産宣告を受け破産廃止となった事実は認め、本件債務が商事債務であること及び時効により消滅したとの主張は争う。

五、再抗弁

興林社は、前記期限の利益喪失後、昭和五二年八月六日から平成元年一一月七日までに元本のうち金四四〇一万一九六四円を弁済しており、時効中断により、時効は成立していない。

六、再抗弁に対する認否

時効中断の主張は争う。

右弁済は、興林社による弁済ではなく、被告が本件債務の連帯保証人として保証債務を履行したものにすぎず、主たる債務である本件債務を承認したものではない。

第三、証拠<略>

理由

一、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件債務及びこれに対する被告の連帯保証を認めることができる。

二、抗弁(時効による消滅)及び再抗弁(弁済による時効中断)について

1. 興林社が破産宣告を受け破産廃止となった事実は当事者間に争いがなく、本件債務が商事債務であることは原告が金融を目的とする法人であり興林社が株式会社であることから明らかである。

2. 原告は、被告が興林社の取締役として昭和五六年二月五日から平成元年一一月七日まで本件債務の連帯保証債務の履行として被告名義の口座より弁済をしてきたものであるから、被告の右支払は、主たる債務である本件債務の承認に該当すると主張するので以下検討する。

証人宇田川輝彦の証言により成立が認められる甲第二号証の一ないし五及び同証人の証言によれば、被告の支払は、被告名義の口座から自動引き落としにより原告に振り込まれたもの及び現金による直接の支払であることが認められ、特段の事情がないかぎり、右支払は、被告の原告に対する保証債務の履行として支払われたものであって、興林社の本件債務の弁済としての支払と認めることはできないし、時効中断の効力は当事者間においてのみその効力を有する(民法一四八条)にすぎないのであるから、保証債務の履行が主たる債務の承認に当たると解することはできず、本件債務については、遅くとも昭和六二年七月五日には時効が成立したことにより消滅したものと解するのが相当であり、被告が興林社の取締役の職にあったとしても、被告の個人名義の口座から振込支払われている以上、右特段の事情に当たるものと認めることはできず、その他右認定を左右するに足る証拠はなく、原告の主張は理由がない。

なお、原告は、被告が準備書面(平成五年一二月一七日付)において本件債務を承認したものとして、その後の本件債務の時効成立の主張に異議を述べている(平成六年二月二四日付)ので付言するが、被告の弁済してきた経緯に鑑みると、そこでいう債務承認とは、被告の右支払が債務承認に当たるとしても、それは被告に対してのみであって他の相続人に対して及ぶものではないという趣旨にとどまり、主たる債務を承認する趣旨でもなく、また、時効援用権の放棄に当たるものではないのであるから、右異議は理由がないものというべきである。

三、以上により、その余について判断するまでもなく、被告の本件債務についての連帯保証債務は、本件債務の時効消滅に付従して消滅したことが認められ、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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